戦略論は様々であり、学者でも無い限り、いや、専門的に研究している学者であっても中々、多くの人に一様に納得する理論を提示しにくいのが、本当のところではないだろうか?私自身も、企業戦略、事業戦略、新事業開発等のお手伝いはしてきたが、毎回、自分自身でも不安を抱えながら、お客様のファシリテーションを行っている。私以外の多くのコンサルタントも私と同様ではないだろうか。また、もし、自分が提案する戦略論が間違いないなどと言い切れるコンサルタントは、実は、最も信用が置けないと思う。
一時期、ハーバードビジネスレビューで、競争の戦略のマイケルポーターと資源論のバーニーがそれぞれの主張を展開していたが、それぞれの主張は、それなりに説得力があったし、また、同じことを別の言葉で表現していると感じたときもあった。いずれにしても、本当に難しい。
戦略といったことが言われ始めた1970年〜1980年代は、オープンシステムプランニングが中心であった。環境適応をするために、企業を取り巻く環境を洗い出し、そして、お決まりのSWOT(強み、弱み、機会、脅威)を検討し、戦略の方向性を決める進め方である。全てを否定はしないが、未だに、こうした進め方を紹介している書籍が出ているが、最近流行の言葉で表現すると、「エッジの利いた戦略」にはならないのは、実際、SWOTで戦略を検討したことがある方は、実感していると思う。検討しても、当たり前の結論しかでにくい。さらに、しっかりとした範囲とデータに基づかないと感覚的になり、ほとんど役に立たない。
個人的には、それぞれの戦略策定手法の利点と限界をしっかり理解した上で、使い分けることが必要であると思うし、最後は、直感も含めたアートの世界になるような気がする。このことは、先輩達が作り上げた戦略理論を否定するものではなく、精度が高い直感を働かせるためには、しっかりとした戦略論に基づく思考が重要であるからだ。
さて、戦略を検討する上で、最初の段階で確認する企業ドメインについて考えてみたい。
レビン&ホワイト、榊原清則慶大教授、レビット等が、それぞれ、多少異なった表現で、企業ドメインを論じているが、最も有名なのは、レビットが例示した内容である。アメリカの鉄道産業が衰退したのは、事業を「鉄道」と定義したために、旅客や貨物を運ぶ他の手段「自動車、航空機等」にとって変わられた。「輸送」と事業を定義すれば、自動車や航空機にも早くから取り組めたといった例示である。至極もっともであり、ハーバード大学の先生らしく、経営者にもわかりやすいことで有名になった。
確かに製品サービスで事業を定義してしまうと、狭すぎて、その製品サービスの衰退とともに、事業も厳しくなる。機能で捉えれば、そうしたことが回避されると言うのである。しかし、輸送業としては、広がりすぎて、何をやったらいいのかわからないといった批判もあるのも理解できる。
私自身学者ではないので、論理的に整理することはできないが、簡単に言えば、狭すぎると上述のアメリカの鉄道会社のように衰退し、逆に広すぎると、事業の範囲を広げすぎることにより非効率になるのも容易に想像できる。さらに、榊原教授が言うように、発展性や意味合いを考えることは、戦略の方向性を考える上では重要であることも、その通りだと思う。
ドメイン、ミッション、ビジョン、戦略・・・と様々な言葉が並ぶと混乱しやすいが、ドメイン(生存領域)を確認するのは、ミッション、ビジョン、戦略の検討の前提になるものであるので、個人的には意義があると思う。最近、インターネットが競争の前提に入ってきてから、ダイナミックに展開される企業間競争を見ていると、ビジネスモデル、事業システムに焦点があたり、大企業であっても、企業ドメインの検討が省略されやすい。また、中小企業では、複数の事業を展開していない限り、もともとあまり検討する必要性が無かったといった経緯もある。しかし、中小企業であっても、単一事業や単一商品サービスといったことではなくなっている。今こそ、ビジョン、戦略を検討するはじめに、必ず検討した方がいいと、実際に、企業の方とご一緒していると感じるのは私だけでないと思うがどうだろうか?
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